ケア労働者が行なっている感情労働のあり方について、労働過程論の視角から検討を行なうとともに、競争的環境のなかでケア供給を行なっている事業主体の組織上の特質を踏まえた、ケアの準市場化政策のケア労働への影響を明らかにするべく調査・研究を行なった。 まず、グループホーム職員に対する全国規模の郵送調査(2007年実施)から得られているデータを用いて、職員のバーンアウト得点と感情労働の関係を探った。バーンアウト尺度を因子分析にかけた結果、当該データにおいては通常考えられている3因子構造ではなく、2因子構造(情緒的疲労感因子と個人的達成感の減退因子)を持つことが示唆された。それぞれの因子を従属変数として、感情労働に関わる変数、組織内におけるコミュニケーション・パターン、事業所の属性、個人属性などを独立変数として投入したモデルで重回帰分析を行なったところ、以下のような結果が得られた。(1)所属事業所の法人形態については、バーンアウト得点への効果が観察されなかった。これは、営利法人/非営利法人の2値データによっても同様であった。(2)感情労働の程度に関する変数は、情緒的疲労感因子に対しては正の有意な効果を持っていたが、個人的達成感の低下因子については、有意な効果は観察されなかった。(3)同僚間の水平的なコミュニケーションは情緒的疲労感の低減につながっていたが、個人的達成感の減退因子に対しては有意な効果を示さなかった。他方、上司との垂直的なコミュニケーションについては個人的達成感の減退因子については低減効果があったが、情緒的疲労感因子については有意な効果は観察されなかった。(4)個人的属性に関しては、年齢とキャリア・コミットメントが最も強力なバーンアウト低減効果を持った変数であることが明らかとなった。(5)性別役割分業意識はバーンアウト因子に対して、有意な効果を示さなかった。
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