研究概要 |
スティラマティの倶舎論注釈書『真実義』は,極めて重要な注釈文献であるにもかかわらず,不完全なチベット語訳や部分的に残る漢訳などによってしか読むことができなかった。ところが,チベットのポタラ宮にサンスクリット写本が保管されてきたことが判明し,その解読研究に取り組むことができる状況が整ったことにより,本研究を開始した。 第1章「界品」注釈文の解読をスタートさせ,およそ23葉分の校訂テクスト作成,翻訳文の作成を終えた。チベット文のみでは確定困難であった議論の脈絡を丹念に辿り,いくつかの点において議論の展開を明確にすることができた。またサンガバドラの『順正理論』やスティラマティの『五蘊論釈』との平行句を同定することができた。これらは重要な文献学上の成果であるが,一方において写本の文字が鮮明でないなどの理由により判読できない箇所もあり,その点において残る課題も多い。 『真実義』解読の基礎作業として,関連するアビダルマ文献の対照ノート作成や,電子化作業を推し進め,多くの基礎文献を蓄積することができた。これらは,今後引き続きアビダルマ研究者に提供可能な基礎研究の成果である。
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