本研究は、1990年代にアフガニスタンのバーミヤン渓谷から発見され、ノルウェーのスコイエン・コレクションを中心とする各国の個人蒐集家あるいは研究機関に引き取られた大量の仏教写本類について、海外の研究協力者とともにその解読と内容の比定を行い、出版を目指すものである。平成20年度は、ブラーフミー文字によるサンスクリット語仏教写本、およびカローシュティー文字によるガンダーラ語仏教写本の解読作業と内容分析を、海外の研究協力者と連絡を密に取りながら前年度に引き続いて行った。さらに、パキスタンのギルギットから発見されたと伝えられるサンスクリット語による説一切有部教団の長阿含経写本やカローシュティー文字写本断簡類を収蔵する平山郁夫コレクションの写本類に対しても、スコイエン・コレクションの写本類と平行して出版のための解読を継続して行なった。20年度の特筆すべき成果としては、カローシュティー文字写本群の中に、著名な大乗経典である集一切福徳三昧経および菩薩蔵経のガンダーラ語断簡が発見されたことである。大乗仏教成立の初期において、大乗経典がガンダーラ語で作成された具体的証拠が初めて確認されたことになる。これら最古層に属する大乗経典写本の発見によって大乗仏教成立の解明に新たな資料を提供できたことになる。
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