本年度は当研究テーマの調査対象として、海外は中国南部の仏教遺跡、国内は重要遺品として滋賀県成菩提院の兜率天曼荼羅図(滋賀県立琵琶湖文化館寄託)を選んで調査を実施した。また、関連する資料収集を、奈良国立博物館・サントリー美術館・東京国立博物館などの研究施設で行った。 海外の主な調査地は以下の通りで、現地調査には研究協力者も同行した。 〔杭州〕霊隠寺、飛来峰石仏、雷峰塔、浙江省博物館、慈雲嶺資延寺、烟霞澗、六和塔、通玄観、上天竺寺・下天竺寺 〔紹興〕柯岩弥勒仏、会稽山寺、禹廟 〔寧波〕阿育王寺、延慶寺、天一閣 〔普陀山〕紫竹林、潮音洞、普済寺 〔台州〕開元寺跡、台州博物館、黄岩博物館、黄岩霊石寺塔 中国の五代から宋時代にかけての弥勒信仰の状況は、河西回廊以外では詳細が不明であり、今回いくつかの遺品・遺跡の存在を確認することが出来た。中でも北宋時代の台州で清凉寺式釈迦如来像の胎内に納入された兜率天弥勒の図像について、版行地とみなされる現地調査を行うことが出来た点は、貴重な成果といえる。 また当該の研究対象である中世の兜率天曼荼羅について、成菩提院本を調査撮影したが、その図像については国内での類例となる興聖寺本・延命寺本などとはまた別系統のものである。兜率天曼荼羅に関しては、西方極楽浄土図における当麻曼荼羅のような規範的な図様が形成されず、図極系統も各別であった点が確認できた。兜率天往生思想をはぐくむ弥勒信仰のありかたが統一的でなかったことを意味すると推測され、この問題の解決が次の考察のステップを提供すると考えられる。
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