「肖像」はある意味で視覚芸術の原点である。歴史的にも地理的にも「肖像」はほぼ普遍的に存在し、これからも存在し続けるだろう。このように、ある特定の人物(あるいは不可視の神)の容姿や姿態などを写し取るという人間の行為は、芸術的表現の根源に深くかかわるものである。それゆえ、これがタブー視されることがあるのにも深い理由がある。しかも「肖像」は、視覚芸術だけでなく、古今東西の神話や文学においても非常に重要なテーマであり、「肖像」をモチーフとする数々の傑作が生み出されてきた。それゆえ、「肖像」の問題は、美術史や美学・芸術学という観点から考察するだけでは、必ずしも十分であるとは言えない。神話学、宗教学および神学、人類学、心理学、精神分析、文学など、さまざまな領域からこの問題にアプローチする必要があるだろう。本研究は、大きく以下の4つの分野にわたって、「肖像」の本質に迫ろうとするものである。1.「肖像」の美学・哲学、2.「肖像」の人類学・心理学、3.「肖像」の美術史、4.神話と文学における「肖像」。
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