研究課題
本研究は、木彫像に用いられる樹種を科学的に分析し同定する作業をおこない、その成果を踏まえながら、樹種選択のあり方を究明しつつ、「用材観」という従来ほとんど議論されてこなかった視点から日本彫刻史を再検討することを目的としている。8・9世紀の主要な木彫像の用材がカヤであることがこれまでの本研究によって科学的に判明し、従来ヒノキ中心に把握されていた用材観に対して問題提起を行なうことができた。その作業を継続するとともに、仏教彫刻のほか神像彫刻や、中国の木彫像にも調査の範囲を広げる。平成19年度は、仏教彫刻のほか、神像彫刻や中国の木彫像の調査、樹種同定を実施した。調査の際には作品の彫刻史的な調書の作成、写真撮影、樹種同定のためのサンプルの採取を実施した。調書、写真は研究に容易に用いられるように整理をした。サンプルは、森林総合研究所において分析し樹種の同定をした。なお、採取は、所蔵者・保管者の許可を得たものに限った。以上の作品調査のほか、神像及び中国の木彫像、10〜11世紀の木彫像に関連する従来の研究書や研究論文を外国の文献も視野に入れながら収集し、研究史を十分に把握するようにつとめた。また、対象となる木彫像の樹種や用材観に関する文献史料を渉猟し、用材に関する認識がどのようなものであったかという観点から検討を加えた。年度末ではあったが携帯可能な高倍率デジタル顕微鏡を導入した。これにおってサンプルの採取ができない場合の樹種同定がある程度可能になるが、そのためのテストデータの収集等を行った。