日本中世文化の多元的で豊饒な遺産を、文学研究の方法論にもとづく「宗教テクスト」概念の許に座標化し、諸位相を統合的に把握することを目的とする。その主なフィールドとして真福寺大須文庫に伝来する聖教典籍を調査対象とし、そのテクスト体系の復原を、断簡化した文献を中心に整理を試み、平成20年度までに構築した画像データベースに採訪したデータを入力し、全対象の三割強の仮整理を行うと同時に、300点(実数は千点超)のデータ化を遂行した。これと同時に断簡から探索した各位相(宗論・記録・唱導・伝記・神道等)のテクストの復元と解釈を行い、栄西『改偏教主決』等、思想的、歴史的に重要な意義を有する文献の全貌が解明された。また、これらを中核とした資料集『中世禅籍叢刊』の公刊計画が進み、次年度以降の刊行が予定される。また、東大寺東南院関係の資料・紙背文書の解読も進展し、更にその中心人物である頼心(~1336)の聖教・文書資料が集成され、他の寺院資料との関連が解明されつつある。年末には、連携研究者と研究協力者を中心とする、本研究主題による研究集会「中世宗教テクスト研究の可能性」を名古屋大学で開催し、その成果は論集『中世文学と寺院資料・聖教』(竹林舎)に結集される予定である。
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