本研究は、三年度の中の初年度にあたり、物語絵巻の本文とその享受の問題に関する基礎研究として、1、国学院大学所蔵本の中からいまだに研究がなされていない、物語絵巻を翻刻し、2、チエスター・ビィティ・ライブラリー(略称CBL)所蔵本の中の物語絵巻の書誌をとった。とくに1については公開することを前提として、資料の共有化、研究情報の発信をした。具体的には、次の4点の国学院大学所蔵の物語絵巻、(1)『竹取物語絵巻』(三巻ハイド旧蔵本)、(2)『伊勢物語絵巻』(二巻武田祐吉博士旧蔵本)、(3)『住吉物語』(奈良絵本二冊本)、(4)『住吉物語』(奈良絵本一冊本)について翻刻し、その成果を「物語絵巻の本文とその享受に関する総合的研究-国学院大学所蔵本を中心として-」(平成19年度科学研究補助金の成果報告書)において公開した。その研究結果として、江戸時代前期に制作された『竹取物語絵巻』の本文が正保刊本によりながらも、書写者による独自の本文が生まれていること、室町時代の国学院大学所蔵本『伊勢物語絵巻』と、江戸時代成立の『伊勢物語絵巻』・奈良絵本『伊勢物語』では、詞書本文と絵画構成との関係に大きな相違があること、奈良絵本『住吉物語』と刊本『住吉物語』には密接な繋がりがあることなどを指摘することができた。これらの研究成果は、江戸時代の物語絵巻の享受及び本文論において有意義であり重要であった。また、チエスター・ビィティ・ライブラリー(略称CBL)所蔵本の調査では、(1)『竹取物語絵巻』三点、(2)『伊勢物語絵巻』・奈良絵本『伊勢物語』、(3)奈良絵本『住吉物語』の6点の書誌調査をし、国学院大学所蔵本との比較研究の基礎資料を蓄積した。この資料の蓄積は、世界各地に所蔵されている物語絵巻、奈良絵本の研究の基礎にもなるものであり、意義あるものであった。
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