本研究は、三年度の中の第二年度にあたり、物語絵巻の本文とその享受の問題に関する基礎研究として、1、國學院大學所蔵本の中からいまだに研究がなされていない、物語絵巻を翻刻し、2、チェスタービーテイーライブラリー(略称CBL)所蔵本の中の物語絵巻、奈良絵本についての書誌をとった。とくに1については公開することを前提として、資料の共有化、研究情報の発信をした。具体的には、次の5点の國學院大學所蔵の物語絵巻、奈良絵本、(1)『竹取物語絵巻』(三巻小型本)、(2)奈良絵本『伊勢物語』(三冊本)、(3)奈良絵本『住吉物語』(三冊本)、(4)『住吉物語絵巻』(三巻)、(5)『ものくさ太郎』について翻刻し、その成果を「物語絵巻の本文とその享受に関する総合的研究-國學院大學所蔵本を中心として-」(平成20年度科学研究補助金の成果報告書)において公開した。その研究結果として、江戸時代前期に制作された『竹取物語絵巻』の本文と挿絵とが、正保刊本によりながらも、新たな絵画世界を構築していること、室町時代の國學院大學所蔵本『伊勢物語絵巻』と、江戸時代成立の奈良絵本『伊勢物語』とでは、本文の相違はないものの、絵画構成に大きな相違があること、奈良絵本『住吉物語』と『住吉物語絵巻』には、本文と挿絵との問に繋がりがあることなどを指摘し、さらに本学所蔵『ものくさ太郎』と大阪府立大学図書館本、石川透氏蔵書本との本文の翻刻を通して、『ものくさ太郎』の伝本状況を提示することもできた。これらの研究成果は、室町時代から江戸時代前期の物語絵巻の本文論、出版文化論において有意義であり重要であった。また、チエスタービーテイーライブラリー(略称CBL)所蔵本の調査では、(1)奈良絵本『竹取物語』二点、(2)奈良絵本『伊勢物語』、(3)奈良絵本『住吉物語』の4点、(4)舞の本などの書誌調査をし、國學院大學所蔵本との比較研究の基礎資料を蓄積した。この資料の蓄積は、世界各地に所蔵されている物語絵巻、奈良絵本の研究の基礎にもなるものであり、意義のあるものであった。
|