平成22年度の実績概要を日本文学方、中国文学方に分けて記述する。 ■日本文学方:以前から収集・調査を続けていた『文昌帝君陰隲文』や『和語陰隙録』といった善書の研究を進め、日本における善書の流布とその実態の解明に取り組んだ。その結果、善書が近世期の比較的早い時期から浸透しており、特にその初期の普及においては仏教(特に浄土宗・曹洞宗)が深く関わっていることを明らかにした。また、その過程で明和3年刊の善書『文昌帝君陰隲文』を新たに発見した。下述の中文方の翻訳作業の成果と共に、平成22年7月26日、京都大学人文科学研究所においてシンポジウム「日本近世文藝と中国白話の世界」を開催した(開催責任者:近衛典子)。第1部は、招聰講師による基調報告(コーディネーター:福田安典)、第二部は、川上陽介を含む国文方2名、中文方1名による研究発表(コメンテーター:金文京)で、中文・国文双方の知見が披露された。その成果は本研究課題の成果報告書とする。 ■中国文学方:平成21年に引き続き三言二拍の翻訳底本作製作業を進めた(中国文学方連携研究者全員)。平成20年前半部分を(『中国古典小説研究』13号)発表した『二刻拍案驚奇』巻4の対訳稿の後半部分を同誌15号に発表した(岡崎由美、他)。その後、本稿は中国文学研究者の視点からの訳注であるため、日本文学研究者からの利用に応えられるように注釈など改訂すべく、日本文学方に諮った。これを雛型にして、進行中の他部分の訳注をすすめ、最終的にはweb上に公開して、広く研究者の便に供することが出来るよう、サイトの構築についてのノウハウを研究し、平成22年度はよりセキュリティの高いOSへの交換作業を行った。
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