研究課題/領域番号 |
19320046
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中地 義和 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (50188942)
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研究分担者 |
塩川 徹也 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 名誉教授 (00109050)
月村 辰雄 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (50143342)
塚本 昌則 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 准教授 (90242081)
野崎 歓 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 准教授 (60218310)
マリアンヌ シモン=及川 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 准教授 (70447457)
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キーワード | 仏文学 / 旅行記 / フランス語圏文学 / エキゾチズム / コロニアリズム / ポストコロニアル / オリエンタリズム / 声 |
研究概要 |
本研究最終年度にあたる2009年は、主に20世紀、とくに第二次大戦後の文学創造にとって、旅がいかなる意味をもつかを探ることに重点を置いた。この時代を旅行記の観点から見ると、従来にない根源的な変質を被ったことがわかる。目的地に向かう長い道のりが物語となりえた前代とは異なり、交通手段の飛躍的発展が旅の道程の意味を希薄にする。また、通信伝達手段の刷新により、文字情報のみならず映像情報が氾濫し、旅が未知なものの発見の場になることがまれになる。発見があるとすれば、より精神的な次元のものにならざるをえない。われわれは旅行記が成立しにくい時代に生きているのである。 また現代は、いわゆるポストコロニアルと呼ばれる状況が否応なく文学を規定する時代でもある。旧植民地とフランス(ヨーロッパ)の間で、何らかの形でアイデンティティの危機を生き、それを創作の原動力とした作家は数知れない。宗主国の言語(フランス語)を教え込まれ、それを知的形成の手段としながらも、元来の母語との絆にこだわるクレオールの作家はもとより、植民地生まれのフランス人作家、引揚げ植民者の末裔である作家など、多様な実例が見出せる。 旅と文学創造に関して現代に特有のこれら二面のうち、後者を例証する作家として、カミュ、デュラス、ル・クレジオを集中的に考察した。とくに2009年11月にはル・クレジオを東京大学本郷キャンパスに招聘し、引揚げ植民者の子供としての二重帰属が作家の中でいかに内面化され、先祖の土地(モーリシャス)への旅が作家の実存と創作にとってどのような意味をもつかを、直接討論する機会をもてたことは大きな収穫であった。 本研究の仕上げのために、前者の側面を例証する作家との直接的討論の機会をもつことが欠かせないという判断から、研究期間を半年延長し、2010年5月にドミニック・ノゲーズ氏を招聘、この面についての議論を深める予定である。その成果を組み込んで最終報告としたい。
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