本研究プロジェクトは、20年度で4年計画の前半を終了することになる。本研究の前半では、「20世紀フォトジャーナリズムにおける「ことば」の機能」という個別テーマのもとに、フォトジャーナリズムにおける映像と言葉との相関関係を徹底的に追究する、という研究を遂行した。 とりわけ、そこで明らかになったことは、20世紀のグラフ雑誌を中心として発達した写真報道が、そこに付される編輯の機制、文章やキャプションといった文字テクストの性格などによって、容易に操作される存在であり、視覚イメージは予想以上に文字的情報によって規定されるという事実である。 欧米ではそうしたフォトジャーナリズムの「読み取り方」を、学校教育や大学教育で訓練する、いわゆるメディアリテラシーという分野を開拓してきたが、私はこの理論を、「フォト・リテラシー」という概念で置き換えて、より広い読者を念頭に、「写真の読み方」の新しい理論と倫理を定義する単著(『フォト・リテラシー-報道写真と読む倫理』中公新書、2008年)を上梓した。これは本研究課題の前半にあたる成果であると同時に、研究成果を広く還元することを目的とした啓蒙書の側面も持っている。幸い、読書界をはじめ広く支持を得て、視覚芸術と文学言説の関係を追究する、本研究課題にふさわしい成果を挙げられたと考える。
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