研究課題
最終年度にあたる今年度は、3回の調査を実施して、第160箱から補遺に相当する書跡・典籍類の詳しいデータを採録し、全体の調査を無事に終了した。今年度の調査で特に注目されるのは、第170函に納められている『雑説疏』一冊で、中世禅僧の諸疏を類聚した史料であった。内容は、寛正年間前後に作成された入寺疏・淋汗疏などを集めたもので、とくに入寺疏については多くが字数・行数を記し、差出の連署もそのまま写したものがあるため、入寺疏そのものを実見して写したものと考えることができる。幸いにも綴ってある糸が切れていることで、紙背に文書があることを確認した。その紙背文書は二十一通あり、表紙・裏表紙紙背のものは金地院・十如院の名が見えることから他よりやや下って中世末のものと考えられるが、表紙・裏表紙以外の十九通は、東芳真詢・足矣などの名が見え、東芳真詢をはじめとする花押が据えられていることから、室町中後期のものと推定される。宛所は建仁寺大昌庵に宛てたものが多いが、大昌庵は一山派の塔頭であり、前述の東芳真詢も一山派であることから、この時期の一山派僧の交流の一端をうかがうことができる貴重な史料の出現となった。これらのデータを、第121函から第180函に加えて補遺分をも含む目録「建仁寺両足院に所蔵される五山文学関係典籍類の調査研究研究成果報告書(建仁寺両足院聖教目録III)」として作成した。これにより、三冊一具の目録の完成となり、当初予定していた調査を完了した。
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