研究課題/領域番号 |
19320057
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
木村 英樹 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (20153207)
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研究分担者 |
木津 祐子 京都大学, 大学院・文学研究科, 准教授 (90242990)
玄 幸子 関西大学, 外国語教育機構, 教授 (00282963)
大西 克也 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 准教授 (10272452)
松江 崇 北海道大学, 大学院・文学研究科, 准教授 (90344530)
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キーワード | 歴史文法 / ヴォイス / 存在文 / 語順 / 近世漢語 / 近代漢語 / 中古漢語 / 上古漢語 |
研究概要 |
本研究課題の柱として重点的に進めてきた存在文、ヴォイスおよび語順に関する研究において、今年度も、当初の目的である「中国語の文法事象の歴史的変容(多様性)と汎時的普遍性の究明」につながる複数の実証的または理論的成果を上げた。 まず、存在文については、上古期以来用いられてきた「"有"字存在文」(動詞"有"を述語として構成される存在文)を対象に史的対照研究を行い、用例の精査と綿密な理論的分析を通して、以下のような重要な知見を獲得した。 (1)現代中国譜に存在する「リアルな時空間における具象的な事物の存在」を表すタイプの"有"字存在文は上古期には未成熟であった。 (2)『論語』に代表される上古前期の中国語においては、動詞"有"の表す基本的な意味は<存在>ではなく、<所有>であった。 (3)リアルな時空間における事物存在を表す"有"字存在文の用法は、<所有>を表す用法から拡張したものであり、その萌芽は『史記』に代表される上古後期に見られ、中古期において発達する。 (4)近代漢語における存在文形成の過程において、量詞「個」の名詞個別化機能が極めて重要な役割を果たした。 なお、2009年の日本中国語学会全国大会におけるシンポジウム「存在表現の類型と歴史」において、本研究課題の代表者である木村、研究分担者である木津、大西の計3名が招待講演者として招かれ、「"有"字存在文」に関する上記の知見と成果を発表し、高い評価を得た。 ヴォイスについては、大西が、謡彙的使役と文法的使役の意味的違いを直接使役と間接使役と見る類型論的見解が、上古中国語においても有効であることを豊富な実例により論証した。 語順については、松江が、上古期から中古期にかけての疑問代名詞目的謡の語順変化の現象に焦点を当て、7つの文献を対象とする悉皆調査に基づき、当該の変化が3つのタイプに分かれることを論証した上で、それらの変化を、上中古間に生じた復音節語の急増と機能譜体系の崩壊という言語構造全体の変化に起因するものとして位置づけ、上中古期における疑問代名詞目的語の語順変化のメカニズムの一端を明らかにした。
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