研究課題/領域番号 |
19320059
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉田 和彦 京都大学, 文学研究科, 教授 (90183699)
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研究分担者 |
大城 光正 京都産業大学, 外国語学部, 教授 (40122379)
森 若葉 総合地球環境学研究所, プロジェクト上級研究員 (80419457)
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キーワード | ヒッタイト語 / 印欧祖語 / 中・受動態 / 歴史言語学 / 文献学 / 形態変化 / 語尾 / 語幹 |
研究概要 |
ヒッタイト語の3人称単数中・受動態は、概して規則的につくられる。すなわち、a-クラスの中・受動態動詞には-a、ta-クラスの中・受動態動詞には-taあるいは-attaという語尾が語根(もしくは語幹)に付与される。それぞれのタイプは、たとえばes-a(ri)'sits'、ar-ta(ri)'stands'、sarr-atta(ri)'divides'によって例証される。しかしながら、共時言語学的あるいは歴史言語学的にみた場合、その形成法に対して自然な説明を与えるのが困難な中・受動態動詞の形式がいくつかある。本年度は、それらの形式が成立するに至った先史を歴史比較言語学的な立場から明らかにすることをめざした。 一般的な形成法から共時的に逸脱している典型的な例としてあげられるのは、lagaittari'lies,is laid (low)'とishuwaittat 'scattered'である。両者は、それぞれlak-とishuwa-という語根からつくられるが、ともに語幹と語尾の間にiという不可解な要素を持っている。lak-とishuwa-の3人称単数現在動態は、古い時代ではlakiとishuiであったが、後に語幹が-a-によって拡張された結果、それぞれlakaiとishuwaiという形式に変化した。文献学的および言語学的分析によって、これらの新しい形式に後期ヒッタイト語において生産的な中・受動態語尾-ttari(現在)と-ttat(過去)が付与された結果、lagaittariとishuwaittatが成立したと考えられる。すなわち、lagaittariとishuwaittatにみられる不規則性は印欧祖語に遡る古い特徴ではなく、ヒッタイト語の歴史のなかでの形態変化によってつくられた二次的な特徴であると考えることができる。
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