本研究は、「隣語大方」の所拠資料である早稲田大学服部文庫所蔵の「朝鮮語訳」全3巻の解読と文献学的検討(他の関連諸資料との照合)および言語学的検討を実施し、また、「朝鮮語訳」のデータベースを作成する計画であったが、本年度はその最終年度にあたり、そのすべての研究・作業を完了した。 まず、解読については、前年からの継続として「朝鮮語訳」第3巻の小説篇の後半部分にとりかかり、その解読を終え、「朝鮮語訳」全3巻の解読を完了した。 つぎに、文献学的検討については、「朝鮮語訳」巻2にあらわれる別差上京の文例と大韓民国国史編纂委員会所蔵対馬宗家文書山川治五右衛門「朝鮮御代官記録」との照合をおこない、その文例の日付が元文2年(1737)8月17日であることを立証した。その成果は、麗澤大学で開かれた日韓言語学者会議で発表した。 言語学的検討については、本書の朝鮮語かな表記、とくに母音についての検討をおこなった。かな表記の分布がおおむね音声的な環境にしたがっていることから、実際の発音をあらわしたものと見られること、アレアの非音韻化・二重母音の短母音化・前舌母音化の過程を反映していること、非語頭音節において母音の高低の対立が弱化し低舌化する傾向が見られることなどを明らかにした。その成果は、高麗大学で開かれた第2回訳学書学会で発表した。 データベースの作成については、本年度解読をおこなった「朝鮮語訳」第3巻小説篇の後半部分を入力し、「朝鮮語訳」全3巻のデジタルデータを完成した。
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