江戸時代から明治の初年にかけて、対馬および薩摩苗代川の地において朝鮮語が学習され、幾多の朝鮮語学書が編纂されたことは、ひろく知られた事実であるが、これに関連した資料の一部が今に伝わる。それら資料の多くは、1960年代に京都大学国文研究室より影印刊行され、朝鮮語および日本語の研究に裨益するところ大なるものがあった。ところで、10年ほど前から、日本の国内.外において、従来知られていなかった新資料が陸続と発見され、この分野の研究は、新たな局面にさしかかってきている。ことに、それら新発見の資料の中には、それぞれの資料の成立の経緯を考えるうえで重要な情報を提供するものがあり、各資料の成立論を再検討する必要が生じている。本研究は、このような観点から、当時最も広く用いられていた語学書のひとつである「隣語大方」をとりあげ、この度新たに発見された写本「朝鮮語訳」に着目しつつ、その成立について検討.考察を加えるものである。「朝鮮語訳」は「隣語大方」の所拠資料と判断されるが、その文献学的・言語学的検討をおこない、解題・本文の翻字・索引を作成する。最終年度においては、この資料の解題・本文翻字・索引付き影印本の刊行をおこなう計画である。
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