本研究は、文の命題的意味と構造を中心課題としてきたこれまでの統語理論では捉え切れなかった「語用機能と統語構造との関係」に関わる現象を、特に、そうした現象が豊富でかつ特徴的に現れる日本語を重点的に考察することで明らかにする。それにより、日本語の統語現象を基盤にして統語理論の発展に寄与することを目指す。特に、主文現象に焦点をあてることにより、「命題」を越えた発話者の役割、モダリティや情報・談話構造などが、統語構造、および統語操作に如何に反映されているかを、体系的に構造の上から明らかにできると考え、これまで「命題」現象の考察を基盤に構築されてきた言語理論を、談話や情報構造をも取り込む統語理論へと改変、発展させる道筋を示し、それを国内だけでなく海外に向けても発信し、日本における統語理論研究を新たな段階へと導くことを目指している。 上記目標に鑑み、平成19年度には、日本語のモダリティが明示される文末表現の統語的振る舞いを集中的に考察し、特に、モダリティと主語の人称との「呼応・一致」と関わると分析できる現象(命令文、依頼文、感嘆文、勧誘文、など)から文の機能を司るCPシステムの精緻化を進めた。これにより、主語と述部の一致は、印欧語などでは命題(IP)レベルで見られるが、日本語では、その上位の機能範疇であるCPで起こるとの分析を提示した。 具体的な研究活動として、昨年度は、学内での研究会「科研サロン」を定期的に開催し、また、関連する研究を遂行している研究者を国内外から招聘し都内で3回(計4日間)のワークショップを開催した。これらでの、発表論文や報告は、神田外語大学・言語科学研究センターの紀要や科研の(中間)報告書として編纂している。これらは、平成20・21年度に継続される研究活動の土台となり、他言語との関わりも含めて発展させることが期待できる。
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