研究課題/領域番号 |
19320103
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
吉村 豊雄 熊本大学, 文学部, 教授 (90182823)
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研究分担者 |
三澤 純 熊本大学, 文学部, 助教授 (80304385)
稲葉 継陽 熊本大学, 社会文化科学研究科, 助教授 (30332860)
足立 啓二 熊本大学, 文学部, 教授 (70128247)
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キーワード | 稟議制 / 合議 / 地域社会 / 村社会 / 公共性 / 政策形成 / 百姓 / 領主制 |
研究概要 |
本研究の中心は、熊本藩の藩庁(奉行所)の民政・地方行政担当部局の帳薄で、近世初期から明治初年に至る総数400冊の分厚い帳薄群たる「覚帳」の解析の解析にある。そして我々は、平成19年度、まず「覚帳」の全体的な点検作業と行い、「覚帳」の全体構成、諸段階を大きく見通す作業を行った。そして次のような見通しを得た。すなわち、18世紀中期、中期藩政改革が実施された宝暦期以降、「覚帳」には農村社会からの上申事案とその行政処理過程を記録するようになり、明和期になると、「覚帳」の大部分が上申事案の行政処理で構成されるとともに、上申文書そのものと、その行政処理を記録するようになる。そして寛政期、寛政末年になると「覚帳」は注目すべき形態変化を遂げる。上申文書の原物そのものが「覚帳」に綴じ込まれ、袋綴じされた上申文書の最後の料紙に部局の審議・決議を書き継ぐ行政方式へと移行することである。以上の「覚帳」の歴史的階梯は、日本近世の領主制が農村社会の自律的運営能力に立脚する方向で、次第に農村社会からの上申事案=上申文書の処理を業務とする割合を強め、ついには農村社会からの上申文書を中央行政機構における禀議制の起案書として、民政・地方行政に関わる政策形成を行うに至るという、従来想像されてこなかった19世紀、幕末期の行政段階を示すものである。我々は、こうした明確な見通しを理論化しつつ、幕末段階の「覚帳」の悉皆的事案解析作業に着手し、地域文書と対応させながら、如何なる事案が藩庁部局に上申されたのかを解明することで、幕末農村社会の自律的運用能力の実態を解明しつつある。
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