研究概要 |
戦後,沖縄県内や本土につくられた米軍基地の周辺に現れた遊興街を対象に,女性の性が消費される空間がどのようにつくりだされたか社会・歴史地理的な視点から明らかにしつつ,基地や売春をめぐる住民運動の展開にも注目した。取組みの具体的な観点と,その成果は以下のとおり。 1)基地周辺遊興街の成立過程にみるジェンダー等の権力関係⇒基地の周辺に歓楽街がつくられるに至った社会・政治的背景や遊興街形成のプロセス,またそこで自らの性を売らざるをえなかった女性たちと兵士,地域住民,行政との関係性を,当時の地方紙から情報収集し,明らかにした。2)軍事基地・演習場をめぐる地域住民の反対運動⇒軍事暴力と地域住民の生活世界の関係を明らかにすることを通じて,軍事基地・演習場がもたらす生活世界の軍事化の様態を明らかにした。また,地域住民が生活世界の軍事化から離脱しうる事例(活動)も見つけた。3)ジェンダー関係が投影された都市空間の分析⇒売春防止法制定前に基地周辺の遊興街において認められた売買春の実態や,それへの住民や行政の対応について,当時の新聞や行政記録から整理し,都市空間内で生じた諸力のせめぎ合いを解明した。4)近世・近代の遊廓に起因する赤線・青線地区(集団的売春街)成立の歴史地理⇒米軍統治下の沖縄県内の基地周辺につくられた遊興街の分析から,軍政府・民政府の施策ないし方針の特徴を明らかにし,本土とは異なる空間の生産過程があったことを突きとめた。5)基地周辺遊興空間の消費と観光の関係性⇒沖縄のもつイメージの変容と観光の関係性について,米軍駐留の前と後との変化に焦点をあてて明らかにした。 女性の性を消費する空間形成のプロセスや,そこに反映された諸力を明らかにするという研究の目的は,ほぼ達成されたと言える。地理学で従来タブー視されてきた性に関わる空間の解明に挑んだことで,日本でのフェミニスト地理学の発展に意義ある成果を残せたものと確信する。
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