まず、会計基準の設定主体がプライベート・セクターに移行しつつあるという一般的理解は必ずしも正しくはないことが明らかになった。たとえば、オーストラリアにおいては、会計基準の設定主体は、プライベート・セクターからパブリック・セクターへと動いてきたことが明らかになった。すなわち、会計士団体による会計基準の設定、政府の審議会による会計基準の承認、会計基準設定主体としての政府機関の設立という動きをたどってきた。しかも、オーストラリアにおいては、議会が会計基準に対する拒否権を有しており、現実にも1度発動されたことがある。これは、強行的なルール設定は民主主義的統制に服すべきであるという発想に基づくものである。ニュージーランドにおいても会計基準設定主体はパブリック・セクターである。 また、オランダにおいては、政府と民間が資金提供を行っている年度報告評議会が会計基準を開発しているが、その会計基準の法的拘束性については、1970年代から現在に至るまで議論の対象となっており、法的な効力はないというのが通説的な見解である。もっとも、アムステルダム裁判所に設けられている企業部は近年、会計基準を尊重する傾向を示している。同様に、ベルギーにおいては、パブリック・セクターである会計基準設定主体が存在するが、その会計基準自体は法的拘束力を有しないと考えられている。そして、その会計基準が法的な意味を有するとすれば、それは慣習法として意義を有するものと考えられている。このように、いくつかのヨーロッパ諸国では、会計基準に法的拘束力を認めることは、民主主義的統制との関係で慎重でなければならないという考え方が根強い。
|