研究課題/領域番号 |
19330021
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
行澤 一人 神戸大学, 法学研究科, 教授 (30210587)
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研究分担者 |
近藤 光男 神戸大学, 法学研究科, 教授 (40114483)
志谷 匡史 神戸大学, 法学研究科, 教授 (60206092)
加藤 貴仁 神戸大学, 法学研究科, 准教授 (30334296)
川口 恭弘 同志社大学, 法学部, 教授 (70195064)
伊勢田 道仁 関西学院大学, 法学部, 教授 (20232366)
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キーワード | 株主主権 / 企業価値 / 企業ファイナンス / ディスカウント・キャッシュフロー方式 / 効率的市場仮説 / 行動ファイナンス理論 / 市場の規律 |
研究概要 |
1 本年は、株主主権論に基づく会社理論を批判的に検討するために、「企業価値とは何か」という問いに対する研究を深めた。 2 企業ファイナンス理論では、企業価値は株主に還元されるべき投資価値に帰着することを前提とする。すなわち、企業価値とは「企業が継続して安定的にフリーキャッシュ(株主に配分できる経営成果)を生み出す力」と考えられ、具体的には、期待される将来利益の現在における割引価値として把握される。これを算出する代表的な計算式としてディスカウント・キャッシュフロー式(PV=EC/ρ:ρは割引率)が用いられるのであるが、割引率を推定するためには資本市場のデータが不可欠であり、結局その数式の正確さ・信頼度は、資本市場が十分に効率的であること(効率的市場仮説)にかかっていると言える。ところが、効率的市場仮説には大きな理論上の問題があることを、主としてアメリカにおける「行動ファイナンス理論」の研究から示唆を得た。特に、「ハーディング現象」や、その一例としての「情報カスケード」といった市場現象に対する認識を深めた。その意味するところは、市場価格を企業価値の指標とするには限界があるということである。実際、アメリカのM&Aに関する判例研究からも、近年、裁判所は、効率的市場仮説の採用に際して、一定の条件(市場環境)を要求する限定的な態度を示すようになってきていることが分かった。 3 この研究成果を法的問題にひきつけて考えるとき、その応用範囲は広くなる。たとえば、企業間の合併における合併比率を決定するときや、合併後に当該合併比率を不公平と感じる株主が株式買取請求権を行使するときに、公正な合併比率や買取価格をどのように算定するかにつき争いが生じる。さらには、経営陣による会社の買収(MBO)や投資ファンド等による敵対的買収における公開買付に際しては、買付価格を焦点として、それが公正な企業価値を反映したものであるかどうかが主要な争点となる。そして、これらの局面において市場価格というものがどれくらい決定的な役割を果たし得るのかに、大きな疑問符がつく。 4 以上から、市場における投資家や株主の行動(市場の規律)に一義的に信頼して企業の支配構造を決定させることが、それほど合理的な制度設計とは言えない、という知見を得ることができた。
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