研究課題
平成21年度は本研究プロジェクトの最終年度に当たるため、我々は研究成果のとりまとめに精力を注いだ。その果実として、本研究に参加する研究代表者及び研究分担者で組織する研究会(企業立法研究会)名義において、代表的な会社法研究雑誌である旬刊商事法務に、本研究課題名をタイトルとする論文を連載で掲載することを得た。そこで、我々は、第一に、事実の問題として、企業の経営者や株主が、M&Aの局面において、ときに、株主主権的アプローチの論者が主張するように資本市場における価格選好のみを基準として行動しないのは、本来不合理な選択であり、誤謬であるとして排除されるべきものなのか、それとも十分な経済合理性を伴った適切な行動である得るのか。第二に、このような現実の企業行動が合理的に説明可能なものであるとして、では、そのような現実の企業行動を、会社法もしくは金融商品取引法において評価する法的枠組みをどのように構築すればよいのか、という問題提起をした。これに対して、我々は、「会社は、株主のみならず、従業員、債権者などの様々なステークホルダーから構成され、その各ステークホルダーの貢献によって企業は新しい価値を創造する」という命題に立ち、そこから第一の問題提起に対しては、そのような企業行動には「企業価値の最大化」という観点から見て十分な経済合理性があることを明らかにした。そして、第二の問題提起に対しては、このような企業価値概念を、できる限り、会社法・金商法上の法的評価の対象としても取り込むことができるようにするのが望ましいので、その法的調整弁として取締役等会社経営者の義務規範を捉え、その裁量的判断を尊重する方向性が規範的判断としては正しいことを主張した。その際、これを実証的に裏付けることができる理論的根拠として、社会科学的実証研究から導かれる「信頼理論モデル」の応用可能性を指摘した。
すべて 2009
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商事法務 I 1866号, II 1867号, III 1868号, IV 1869号, V 1870号, VI 1871号
ページ: I 4-10, II 31-37, III 32-37, IV 41-48, V 39-44, VI 52-58