研究概要 |
本研究は、憲法改正に向けた議論が活性化し、一旦沈静化した現状においてより重要となる客観的な分析と適切な提言を行う意義を有し、憲法規定を設けることそれ自体の要否を含め、諸外国における環境規定のあり方及びこれに関する議論につき詳細な検討と分析を行い、それらを踏まえた提言を行なった。平成21年度においては、環境権規定の規定方法の違いにつき、法制度の違いを踏まえて各国の特色を分析した。それらの研究成果は季刊環境研究156号に発表した。具体的には高橋滋が研究の統括をし、連携研究者の岡森識晃甲南大学准教授がフランスの規定、小舟賢広島修道大学准教授がドイツの規定、研究協力者の寺田麻佑一橋大学大学院法学研究科博士後期課程がアメリカを担当した(寺田麻佑「米国連邦憲法・州憲法における環境保護規定」190-210頁)。さらに、ヨーロッパを中心とする各国の憲法における環境関連規定の状況等について、海外研究協力者のリューネブルク大学員外教授のヨアヒム・ザンデン氏の協力を受け、またザンデン教授の論文も公表した(Joachim Sanden, "Umweltgrundrechte, Umweltstaatszielbestimmungen sowie Umweltgrundpflichten im Gefuge der Europaischen Verfassungen-Vergleichende Uberlegungen mit Blick auf das japanische Verfassungsrecht", Hitotsubashi Journal of Law and Politics Vol.38, February 2010, pp.31-146)。その抄訳(小舟訳)は季刊環境研究157号に掲載する。 さらに、調査研究の締め括りとして座談会を行なった(出席者:高橋・岡森・小舟・寺田、季刊環境研究157号に掲載)。日本法への示唆としては、環境関連規定が憲法上導入された欧州諸国において、それらの規定から直接に環境保護の成果が見られるとは必ずしも言い難い状況にあること、米国においても州憲法の規定にかかわらず訴訟提起に多くの問題があることを踏まえ、憲法における環境関連規定のあり方につき、今後も慎重な議論を重ねる必要があることが確認された。また、具体的に環境関連規定の導入を図る場合には、環境意識、環境保護に資する特別な訴訟制度の充実、とりわけ環境団体訴訟の制度化について多くの議論を重ねる必要があることが確認された。
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