研究概要 |
本年度はとくに政党間のイデオロギー対立と外交政策との関係について立ち入って考察した。ただし,単に民主党,共和党間のイデオロギー対立だけでなく,それぞれの党内に存在するイデオロギー対立についても分析した。民主党については左派,リベラル派の反戦論に立脚した外交論,中道派の外交政策,そしてリベラル,ホ-ク呼ばれる右派の外交観の三つにつき,そして共和党についてはリアリスト系穏健派,保守強硬派,新保守主義者,宗教保守派,右派孤立主義者,そしてリバタリアン的孤立主義者に分けて考察した。この成果はすでに久保編『アメリカ外交の諸潮流』として刊行されている。このような分析枠組みの有効性は,とくに現在進行中の大統領選挙予備選挙を一瞥するだけでも明らかであるように思われる。民主党内では,予備選挙プロセスにおいては,反戦派が圧倒的な影響力を誇る。イラク戦争について,ほとんどすべての候補が反戦派の立場をとらざるをえなくなっている。他方で共和党においては,予備選挙レベルでは保守強硬派,および宗教保守派が強い影響力をもつ。しかし,一部有権者の間では,リバタリアン的立場に対する支持も表明された。 他方で,民主党でも共和党でも,ホワイトハウス,国務省,国防総省レベルでは,中道派,ないし穏健派がより大きな影響力を発揮することになる。このように,政治過程のレベルによって,影響力行使の態様とその有効性が大きく異なることが重要である。議会選挙においても,2006年にコネチカット州民主党予備選挙において,リーバーマンは敗北し,無名の反戦派が勝利した。こんにち,民主党の予備選挙においては,このように左派,反戦派が強固な影響力をもつにいたっていることが,さまざまな形で立証可能である。
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