今年度は、資産市場の一般均衡モデルを構成する金融機関と企業の行動について金融機関による企業への貸出行動と企業間における短期的な信用供与形態である企業間信用の関連性について実証的な分析を行った。2004年度の中小企業実態基本調査には企業間信用の出し手と受け手に関する詳細な情報が含まれている。また、標本企業と主たる取引金融機関であるメインバンクとの取引関係についても、その情報が収録されている。基本調査の個票データに基づいて銀行との取引関係が企業間信用に対してどのような影響を与えるのか実証的に検討を加えた。 実証的な手順は、2つのステップに分けて行われた。第1のステップは銀行との取引関係が薄い企業ほど財を仕入れる際に大企業へ依存するのか、という点を実証的に確認することである。第2のステップは、財を購入する際に大企業への依存度が高いほど、売り手である大企業から買い手である中小企業に対して企業間信用を通じた信用の供与がなされるのか、という点を実証分析することである。実証分析を行った結果、銀行への依存度が低く取引関係が薄い企業ほど、財・サービスを購入する場合に、大企業への依存度を高め、売り手企業から企業間信用を通じて多くの信用供与を受けていることがわかった。ただし、その傾向は財務状況が良好な中小企業にのみ見られる現象であって、財務状況が悪化し、債務が総資産を超過した企業にとっては観察されなかった。 金融機関の貸出行動が企業の資金繰りに影響を与えて、それが企業間の取引行動にも影響が及ぶというわれわれの実証結果は、この科研研究の大きな目的である、金融サイドと実物サイドの接合面に留意した資産市場の一般均衡モデルを作成する上で重要な視点を提供している。
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