今年度は、資産市場の一般均衡モデルを構成する企業の行動について、企業間の財の取引関係がどのような要因によって決定されるのか、実証的な分析を行った。企業間の財の取引を分析する手法としては、従来から「産業連関分析」が用いられてきた。産業連関分析では、企業間の財の取引は、もっぱら生産技術に依存して決定されるという前提の下に分析が進められる。しかし、近年、大企業と中小企業に分けて規模別に財の取引関係を描写した「規模別産業連関表」が利用可能となってきた。このデータを用いることにより、ある産業が他産業から投入を行う場合に、大企業群から投入を行うのか、それとも中小企業群から投入を行うのか、分析することが可能となる。本研究は、この点に着目して、販売先の財務状況によって投入パターンが変化するという理論モデルを構築して、その実証分析を進めてきた。 理論モデルの構築は今年度内に完了しており、現在は1980、85、90、95、2000年の5年分の規模別産業連関表を利用したモデルの計測が進行している。仕入先の大企業群、中小企業群の負債比率、流動性の大きさ、購入元の負債比率、流動性の大きさを説明変数とする回帰分析が進められている。 企業間の財・サービス取引が単に生産技術のみによって決定されるのではなく、取引に関与する企業の財務状況にも依存するという視点は、これまでにはない斬新なものである。わが国の90年代後半以降のように、企業の財務状況が著しく悪化した状況における企業間関係を分析する上で、本研究は重要な示唆を与えてくれると期待できる。
|