研究概要 |
今年度はこの研究課題の最終年度である。これまでに企業の個票データに基づいて金融機関と企業の関係が企業間の財の取引関係にどのような影響を与えるのか、定量的な分析を行ってきたが、これまでの部分均衡分析を一般均衡のフレームワークに拡張した実証分析が行なわれた。具体的には、企業やその企業と取引関係にある金融機関の財務状況が悪化した場合に、当該企業と財の取引のある(当該企業に財を投入している企業、当該企業の販売先企業)にどのように波及し、経済全体にどの程度のインパクトがあるのか、実証分析を行った。用いたデータは「規模別産業連関表」である。規模別産業連関表では製造業を中心に企業群を大企業群と中小・中堅企業群に分けて企業規模を考慮した産業間の取引を描写している。1980、1985,1990,1995、2000年の5年間にわたる産業連関表を用いて、まず投人係数が産葉や金融機関の財務状況によって、どのようか影響を受けるのか定量的に分析した。主要な結果は、90年代から2000年代初頭にかけて金融機関の貸出態度が企業規模を考慮した産業間の取引に大きな影響を及ぼしていたことである。この実証結果は重要な含意を持っている。即ち、金融機関の貸出態度は、当該金融機関の不良債権等の財務状況によって大きな影響を受けるから、金融部門における不良債権比率の上昇は、金融機関の貸出態度の厳格化を通して産業間における財の配分プロセスに影響を及ぼすのである。 さらに上記の計測結果に基づいてシミュレーション分析を行い以下の結果を得た。90年代後半の金融危機に観祭されたような金融機関の貸出態度の厳格化に中小企業が直面した場合(大企業に対しては同じオーダーの貸出態度の緩和を仮定)、中小企業部門への乗数は大きく低下するのに対して、大企業部門の乗数は大きく上昇する。 財務状況の悪化が、異なった規模間における財の取引関係の変化を通じて経済全体への乗数効果に大きな影響をぼすというファインディングスは本研究が初めて明らかにしたものである。さらに、財務状況の悪化が企業規模間における格差の助長につながるという含意は、わが国の中小企業施策を考える上で、重要な示唆を与えている。
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