第一に、平成19・20年度の研究で構築した、道路の需要予測と整合的な便益評価理論モデルをさらに発展させ、離散選択モデルと通常のミクロ経済学モデルを整合的に統一する足掛かりを作った。その成果を2009年4月と2009年7月に国際学会で発表した。 第二に、本研究の現実への応用として、高速道路料金の割引政策を経済学的に分析した。主要な結論は、以下である。1)交通政策の費用便益分析を行う際に、高速道路と代替的な交通手段(鉄道、フェリー等)が存在する場合、それらの交通手段における社会的余剰の減少を考慮する必要がある。その意味で、高速道路の無料化が鉄道会社やフェリー会社の経営を圧迫しているのであれば、高速道路の無料化の是非を経済学的に論じる際には、鉄道会社やフェリー会社の利潤の減少を考慮するべきである。2)観光地での土産物の売上等が伸びたとしてもそれは競争市場を考える限り、考慮する必要がない。考慮すべきなのは、死重損失の変化であるが、これは無視できるほど小さいと考えられる。例えば、高速道路の無料化がA地域の土産物の売上増をもたらしているとしよう。この場合、国民の所得全体が一定なら、B地域の土産物の売上か他の支出が減少しているはずであるというのが直観的な理解である。新聞紙上等では、高速道路の上限を1000円に割り引く政策により、近くの観光地から遠い観光地に行き先がシフトしていること、鉄道会社、バス会社等の公共交通の経営に悪影響を与えていることが報じられており、多くの一般の方も、このような高速道路割引政策に疑念を持っている。この研究成果は、この問題に経済学の立場から明確な回答を与えており、現実と密接に関連し、直接的に政策に応用可能な成果である。
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