病気療養のため、平成20年度の研究期間を平成21年7月まで延長したことに伴い、平成21年度の研究期間は8ヶ月間に短縮された。この期間は基本的にこれまでに収集した土地・借金文書の分類、整理、そして文書のスキャニングとデータベースの構築に研究時間を割いた。特に質権設定に関る文書において、何種類かに分類されるべきであると気づき、分類と整理をやり直した。植民地期ビルマの租税査定官であり高名なビルマ研究者であるファーニバルによると、下ビルマ(ミャンマー)では用益権譲渡を伴わないNon-usufructuary mortgageが一般的で、用益権の移転を伴うUsufructuary mortgage、いわゆる「質入」は極めて少ないということであり、当初これを信用して、下ビルマの抵当権または質権文書はすべて一括りに分類した。しかし、枚数を重ね、手書きの文書を読み進むうちに、Non-usufructuary mortgageは「レッメー(letme)」、Usufructuary mortgageは「レッシ(letshi」と区別されており、両者の文書数に大きな差がないことが分かってきた。そこで、質権文書を二つに分けて、データベースを組みなおすことにした。さらに、この文書の中に「アパウンゾウン(apaung soung)」という表現が使われているものも多数見つかり、これが「質流れ」を示すものであることがわかった。したがって、上記2分類した文書の中から、「質流れ」文書を再度抜き出し、これを別分類とした。21年度の研究期間ではこの文書のデータベース化に多くの時間を割いた。同時に、他の研究費も用いて、ミャンマーを3度訪れ、同じ下ミャンマー地域ではあるが、県や郡が異なる地域の文書の収集に努め、下ミャンマーの地域差を分析する材料を増やすことができた。
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