性役割構造の平等化が進むにつれ、家庭での役割が職場での役割にあたえる影響(または、その逆の影響)を考慮せずして働く人々の行動を理解することは非常に困難となっている。組織における人間行動の原因を説明する際に考慮する環境要因を種々の組織変数だけにもとめる従来のフレームワークを脱皮し、仕事生活と家庭生活の相互影響過程に目を向ける必要がある。本研究はこのような社会背景に鑑みて開始された。 既存研究においては、仕事生活に対する態度と家庭生活に対する態度の間の関係について3つの競合モデルが存在してきた。スピルオーバー(流出)、コンペイセイション(補償)、そしてセグメンテーション(分離)の3つである。これらのモデルは、両生活領域における態度の間にはそれぞれ正相関、負相関、無相関的な関係が存在すると主張している。我々は、これら3つのモデルのどれが正しいかを問うべきはなく、個人の価値観とかパーソナリティー等の個人差要因、及び雇用条件、家族状況、社会的歴史的なコンテクスト等の環境要因を考慮した場合、上記のいずれのモデルも妥当であることを主張し得る調査結果を得た。文献に対する理論的貢献は極めて高いと評価されよう。今後は、仕事生活と家庭生活における具体的な諸要因が、両生活領域における具体的な行動(例えば、職場での業績、自発的欠勤・退職、仕事コミットメント等、及び家庭での人間関係、レジャー、暴力、離婚等)とどのように結びついているかを明らかにしていきたい。
|