本研究の目的は、液晶産業において、世界中からナレッジ等を入手・活用しながらグローバルな規模での競争力を築き上げる「メタナショナル経営」によるグローバル競争の分析と日本の競争力強化の研究を行うことである。 液晶産業を牽引する製品は、近年パソコンから液晶テレビに代わった。ソニーは、自前のディスプレイを持たないが、韓国サムスン電子と合弁会社を設立し、「メタナショナル経営」を実践している。一方、シャープは、シェアが日本では非常に高いが世界では低かった。このため、日本での液晶パネルの生産をコアに、世界5拠点で液晶テレビの組み立てを行うと共に、液晶パネルのOEMも行って、事業価値の最大化を図ろうとしている。この分析から、日本の競争力の強化のため、「暗黙知の擦り合わせ」による「コアナレッジ」を国内に形成し、これを基に事業価値を最大化すべく、世界を見据えた最適配置を行う「コアナショナル経営」を提案し、経済産業研究所ディスカション・ペーパー等の5件の発表を行った。 また、シャープが液晶工場と薄膜太陽電池工場を併設する「21世紀型コンビナート」を2007年7月に発表した。このため、液晶産業、半導体産業と太陽電池産業をアーキテクチャの観点から比較研究し、グローバル戦略を分析して1件の発表を行った。 また、液晶産業の事例から、グローバルな知識の移転・獲得のプロセスを分析し、「技術学習」の観点から整理し、マレーシアの学会で発表した。 このように、液晶産業の事例から、日本の製造業の強みを、「暗黙知の擦り合わせ」から生み出される「コアナレッジ」という新しいコンセプトを創生すると共に、「コアナショナル経営」という新しい概念にまとめて提案した意義は大きい。今後、更なる理論の発展とデータによる検証を行っていく。
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