本研究は、近世から近代移行期の200年に着目し、徳川期の人口史料を利用することから、庶民の結婚、出生、死亡、移動を中心としたライフコースと、社会的・地理的移動を中心とした社会的ネットワークについて、そのパターンと要因を解明することを目的としている。本年は、昨年度に引き続き、これまで蓄積してきたデータベース構築と分析の体験・知識を整理し、他地域に応用していく作業を進めた。麗澤大学人口・家族史研究プロジェクト室を拠点とし、具体的には以下の3点の成果があがった。 (1)データ整理とデータベース構築作業:昨年度に引き続き、福島県の資料を中心に、特に郡山町を中心として、分析が可能な変数の構築とデータベースの拡充を行った。また都市の分析が可能なデータとして発掘した播州高砂の宗門改帳の整理を行い、入力を進めた。また、これまでのデータベース構築の一連の作業をまとめ、その各段階における問題点を明らかにした論文を発表した(人口学研究)。 (2)ライフコース分析:二本松藩二農村におけるイベントヒストリー分析を利用した研究成果をベースに、他コミュニティー・社会での比較分析を試みた。特に、結婚・離婚については、昨年の研究成果をさらに発展させ、二本松藩における農村と在郷町の比較、さらに東北農村と、同時代におけるスウェーデン、ベルギー、イタリア、中国のコミュニティーとの比較研究を進めた。結婚・離婚のパターンと要因構造を明らかにし、成果を日本人口学会、経済史学会、米国人口学会(PAA)、米国社会科学史学会(SSHA)にて報告した。また東北二農村の結婚と出生分析の成果については、「日本の人口学のフロンティア」というドイツ・マックスプランク研究所主催のセミナーにて報告した。 (3)ネットワーク分析:歴史人口学では新しい「ネットワーク分析」という方法を明治初期多摩地域の単年データに適用する方法を検討し、近代移行期における結婚ネットワークの分析を進めた。論文(未発表)としてまとめたが、次年度において、本分析方法の歴史人口学データへの有効性についてさらに研究を進める予定である。
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