本研究課題は、二種類の社会政策とその根底にある規範理論との関係を体系的に研究し解明することを目的としている。一般的な福祉・福利厚生政策は社会的正義の理論のうえに構築されている一方で、文化多元主義政策、文化的理論、少数派の権利などによっても支えられている。 その根底にある仮説は、一般的に社会的正義と文化多元主義の対立を個人の権利とグループの権利の対立として捉えるものであり、この論理には欠陥がある。 非常にしばしば社会的正義や文化多元主義の問題が表れる、政治的な戦略や目的といったものをもっと考慮したアプローチ方法をとるべきであり、社会的正義と文化多元主義のどちらが戦略的な配慮を元に、それらの政治的戦略を決定していくのかということは、未解決の問題であり、本研究で中心となる課題である。 このことと関連して、なぜこの論議がごく最近に限られて起こってきているのかということを考える必要がある。文化多元主義が政治や理論の中で中心を占めることとなったのはここ約40年の間であるのに対し、社会的正義は少なくとも第一次世界大戦後には政治の議論の中心にあった。
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