19年度に引き続き、対象地域(福岡県直方・田川・大牟田市)において住民(現役労働者・求職者・失業対策事業従事者・生活保護受給者など)への聞き取り調査を行った(H20年8、9、12月)。被調査者の人数は、19度の50名に101名が加わり計151人となった。さらに、インタビューで得られた録音を紙ベースに逐語で起こすこと、その概要をまとめることに大きな時間を割いた(現在120人強が完了)。被調査者が極力自由な言説を展開するように、調査者は助けたが、いずれの人々も人生経験と厳しい生活の現状(家族関係を含む)、地域認識、自己認識を率直かつ自由に語ってくれ、統計(量的調査)では得られない貧困のリアリティが得られた。分析のメソッドについては、3月に2度の合宿研究会を行い、カテゴリー(世帯上の属性・世帯状況)およびサブカテゴリー(職業行程-職業上の地位の変化など)への分類、カテゴリー毎に生活歴・ライフコース(個々人のステージ・出来事におけるアクター・社会制度の関与、リアクション、行為のロジック)の特徴を明らかにすることを確認した。なお、同時に本研究が参照している、フランス社会学でのbiography分析の方法を検討するため、またフランスの失業・貧困対策の現状について、9月に渡仏してDidier Demaziere(ベルサイユ大学教授)などとの意見交換を行った。以上の作業は、本研究課題である今日的貧困における、個人的要素の社会的要素への転換、その契機、そして貧困状況にある個人のアイデンティティの所在を明らかにするための土台と考える。そして、研究の最終年には、今日の貧困研究で散見される貧困の個人的現象化、また自立支援論の問題点を、現実から検討・反論することを課題とすることを確認した。
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