研究概要 |
本研究は,認知リハビリテーションを実施することで,認知機能,とりわけ抑制機能に改善・変化がみられるかを検討したものである。この検討を通じて,認知機能の可塑性について考察することを目的とした。高齢者を対象として,3年間の計算・音読課題を遂行することで,認知機能および前頭前野機能に与える影響を調べた。京都市にある社会福祉法人の特別養護老人ホームに入所している高齢者の中から39人が,この取り組みに参加した。彼らは,音読計算を実施する学習群に28名,音読計算課題を実施せず,査定課題のみを定期的に実施する統制群に11名に振り分けられた。学習は,施設内の2つの部屋で同時に行われた。一人当たりの学習時間は,1日につきおよそ15分~20分であった。全体としての学習時間は,2時間ほどが設定されており,学習者はこの時間帯の中のどこかで参加した。効果の査定としてEAB課題とMMSE課題を実施した。学習群は,介入を始める前のベースライン時に第1回目の査定を行い,介入半年後,1年後,1年半後,2年後,2年半後に同一の査定を実施した。統制群では,学習群の査定時期に合わせて同一の査定を行った。結果として,3つの点が明らかになった。1)学習群の前頭前野機能,抑制機能の改善・維持が確認された。2)学習群の認知機能の維持が確認された。3)統制群の前頭前野の低下が確認された。これらの結果より,高齢者の認知機能には可塑性が十分期待できることが確認できた。高齢化社会を迎えるにあたり,認知リハビリテーションの重要性が指摘できたものと思われる。
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