本研究は、人間や動物の意思決定プロセスにおける脳内の報酬情報処理と刺激知覚処理との関係をヒトの機能的MRI (fMRI)実験、実験動物(サル)における神経細胞活動記録、ならびに理論計算モデルの3点から検討することを目的とした。昨年度までの研究から、ジュースや金銭などの報酬と条件付けられた視覚刺激(ランダムドットモーションやガボールパッチ)の明瞭度を変化させたときに、主に大脳基底核が明瞭度の高い刺激に対して刺激の入力情報に基づいて報酬予測的な活動を示し、内側前頭葉など大脳皮質が明瞭度の低い刺激に対して知覚判断情報に基づいて報酬予測活動を示すことが明らかとなっていた。本年度は引き続き、金銭の損失という負の報酬の予測に対して同様の検討を行い、主に扁桃体や島葉などの大脳辺縁系が明瞭度の高い刺激に対して刺激の入力情報に基づいて損失予測活動を示し、外側前頭前野を中心とする大脳皮質連合野が明瞭度の低い刺激に対して刺激の知覚判断情報に基づいて損失予測活動を示すことを明らかにした。さらに、刺激の明瞭度の変化による報酬予測の変容と、刺激-報酬間の連合頻度を操作することによる報酬予測確率とを独立に評価する課題を施行し、知覚による報酬情報処理の変化と経験による報酬情報処理の変化とがどのような関係にあるかの検討を試みた。この結果、反応時間など報酬関連行動指標は、経験頻度よりも知覚情報をより鋭敏に反映することを示唆する結果を得た。この効果の脳内機序については引き続き検討中である。最後に、これら本研究で明らかになった報酬関連意思決定の多様な神経回路について、英文総論論文にまとめて発表した。
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