がまんの問題は「行動抑制」あるいは「セルフ・コントロール」の問題としてこれまで研究されてきている。ルールに従ったがまんをするのが「行動抑制」、長期的な利益のために短期的な利益をがまんするのが「セルフ・コントロール」である。サルに行動抑制に関係する「ゴー・ノーゴー課題」、「ストップ信号課題」と「多選択セルフ・コントロール課題」を訓練した。ゴー・ノーゴー課題では、ある刺激に対しては特定の運動反応を、別の刺激には運動反応の抑制をするように訓練した。ストップ信号課題では、運動反応の準備をしている間に、ときどき「ストップ信号」を出し、ストップ信号が出たときには運動反応を抑制するよう訓練した。セルフ・コントロール課題では、「ある刺激を選ぶと少しの報酬がすぐ出るが、別の刺激を選ぶと大きな報酬がかなりの時間を経て与えられる」、という事態で選択をするように訓練した。 注意欠陥多動性障害(ADHD)は注意欠陥・多動・衝動性を特徴とした発達障害であり、前頭連合野との関連がいわれている。メチルフェニデート(リタリン)はドーパミンの作動薬的な働きをし、ADHDの治療薬として広く用いられているが、その作用メカニズムについては不明のところが多い。我々は認知課題遂行中のサルに対するメチルフェニデートの影響について行動レベルと神経伝達物質レベルで調べる試みを開始した。サルにメチルフェニデートを経口投与し、各課題を行なわせたところ、ゴーノーゴー課題ではノーゴー反応の促進が、セルフコントロール課題では、より多くの報酬のために長く待つことをがまんする反応の促進が見られた。こうしたサルにおいて、メチルフェニデートによる前頭連合野内の神経伝達物質の動態を調べるマイクロダイアリシス研究により、この薬物の認知課題に作用するメカニズムを解明する実験を開始した。
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