平成22年度の研究目的に照らして、次のような結果がえられた。 (1)幼稚園入園時から追跡を開始した幼児の保護者に対して、小学校入学直前に意識調査を実施した。入学を控えた保護者の不安は、「学校生活の枠組みへの適応」「健康・安全」「友だちとの関係」「身辺処理の自立」の4因子が見出された。これらの不安と対人的発達期待との関連では、日本に特徴的とされる集団の協調性とは関連せず、むしろ個の独自性との負の関連性が認められた。 (2)2010年度末に実施した幼稚園、保育所、小学校の連携に関する全国調査の結果の一部をまとめて論文化した(雑誌論文参照)。また、関連する内容による学会発表を1件行った。従来は地域の幼稚園、保育所、小学校の全体を対象とした調査は行われておらず、本研究によって地域の連携研究の蓄積による成果や連携に関する校種間の意識の温度差が明らかとなった。 (3)幼稚園から小学校への環境移行を、附属幼稚園から附属小学校へ入学する子どもの追跡観察によって検討した結果、子どもなりの新環境への適応戦略が認められた。入学当初の教師や周囲への過剰な対応が次第に選択的になったり、即時的な反応を避けて溜めのある対応をしたり、意図的に活動の文脈に自らを位置づけないことが認められた。小学校の活動は「課題」として行うべきことが明確化され、遂行の有無が可視化される。それらは評価の対象にもなる。新奇の相互作用場面で、否定的な評価が可視化されることを回避するための子どもなりの戦略であろうと解釈された。 (4)幼稚園・小学校には、文化や生活習慣などについての組織化された見方がある。それらは、保育・教育として可能なストーリー・テーリングの遂行によって支えられる。さらにそのストーリーを支え、教育実践を機能させるのは社会的・生態学的システムである。子ども側から環境移行をみれば、他者と相互作用しつつ、移行初期の環境を自己の活動しやすい環境に再構築するということであり、発達という視点からは、教育実践のストーリーとシステムの組替えとして捉えられた。
|