研究概要 |
代数曲面や高次元代数多様体上のベクトル束やヒッグズ束の研究を行った。リーマン面上のベクトル束に対してヒッグズが定義した構造を,シンプソンが高次元の場合に拡張したヒッグズ束とは,接束が生成する対称テンソル積環の作用付きベクトルも理解することにより,従来知られていた自然な例以外にも,ヒッグズ束が豊富にあることを示し,安定ヒッグズ束の新しい例を構成した。安定ヒッグズ束については,その第1チャン類と第2チャン類の間にボゴモロフ不等式が成立することが,シンプソンによって証明されている。彼の証明は,良い計量を構成するという解析的・微分幾何的な証明であるため,純代数的な証明を試み,以下のような結果を得た。「射影多様体上の安定なヒッグズ束が与えられたとき,もとの多様体を適当な分岐被覆に,ヒッグズ束を被覆への引き戻しに置き換えたとき,このヒッグズ束と接束とのテンソル束を変形すると,半安定ベクトル束になる。同じ結果はもとのヒッグズ束の対称テンソル束についても成立する」。この結果の系として,ボゴモロフ不等式は自然に得られることになる。また安定ベクトル束に対する小林・ヒッチン・ドナルドソン・ウーレンベック・ヤウの定理を用いれば,簡単な極限操作によって,シンプソンによる良い計量の存在定理の別証明が得られる。上で述べた変形は,あくまでも接束とのテンソル束をとって得られるものであって,もとのヒッグズ束やその引き戻しは一般には非自明な変形をもたない。この結果の応用として,ある種のベクトル束に対する消滅定理が得られることは,S. Muller-Stachによって注意された。
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