研究概要 |
多様体間の可微分写像やその特異点についての研究は,20世紀中ごろのホイットニーやトムに始まりその後大きな発展を遂げた.特に可微分写像の局所的性質(ある点のまわりでの性質)が多く研究され,現在では多くの理論・道具が確立されている.しかし,多様体の本質的構造に関わる大域的性質(写像全体としての性質)の研究は,重要であるにもかかわらずあまりなされてこなかった.一方,可微分多様体論に関しては,1970年代までに5次元以上の高次元多様体論がかなり発展し,その中で興味深い事実が次々と発見されていった.特に一つの位相多様体の上に複数の可微分構造が入り得ることが多くの例とともに発見され,微分位相幾何学の世界に大きな衝撃を与えた.さらに最近では4次元多様体に関する研究が進み,上のような現象が高次元に比べるとさらに頻繁に起こり,むしろその方が自然であるという状況すら明らかにされてきている.しかし可微分構造の分類といった重要な問題は未解決のまま残されている. このように可微分多様体論は盛んに研究されてきたわけであるが,可微分写像の大域的特異点論の立場からの研究は,重要であるにもかかわらずほとんどなされてきていない.ところが最近小生らのグループによる研究により,実数に値を取る関数ではなく,多様体に値を取る写像とその特異点を本質的に用いることにより,可微分構造に関する情報が取り出せる例が発見された.これらの結果により,可微分構造の究明に,多様体間の写像とその特異点の研究が大変重要であることがあらためて浮き彫りになったと言える. しかし,こうした研究には解決すべき問題が山積している.それは,特異点の局所的性質とは本質的に異なる興味深い現象が大域的研究の中で発見されてきているものの,それらを大きな枠組みの中で統括的に扱えるような理論が未だに現われていないことからもうかがえる. そこで本研究では,大域的特異点論の種々の重要な未解決問題を,これまでにない統一的観点から,より大きな枠組みの中で解決してゆくことを目的とする.さらに,そうした結果を応用して,微分位相幾何学の種々の重要な問題を解決する.
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