研究概要 |
本年度,研究代表者の新井仁之は主に視覚の数理モデルへの実装という視点からフレームレットの構成を行った。フレームレットとはウェーブレットをさらに発展させたもので,その一般論は2000年頃よりDaubechiesら数学者によって研究されてきた。視覚の数理モデルに新井仁之はこれまで最大重複双直交ウェーブレットを用いてきたが,単純細胞の方位選択性,周波数選択性の観点から改善の余地があった。そこでこれを改善するために新しいウェーブレット,フレームを構成し,2007年に論文発表した(新井しのぶと共著)。しかしこれは有限次元の線形空間上のウェーブレット,フレームであった。調和解析的な視点からすると,より一般の無限次元線形空糊,特に$1^{2}(\boldsymbol{Z}\times \boldsymbol{Z})$や$L^{2}(\boldsymbol{R}\times\boldsymbol{R})$のタイト,フレームになっているものが構成できることが望ましい。本年度,新井はそのようなタイト,フレームレットの構成を行った(新井しのぶと共同)。この新しいフレームレットは視覚の神経生理学的な視点からも,望ましい点を有している。このことから,新井,新井のフレームレットは視覚の数学的方法を用いた研究のみならず,画像処理などへの応用も十分に期待できるものである。分担者の勘甚,洞,立澤は調和解析に関する次のような成果を得た。勘甚は単位円板上のバーディ空間に属する関数のフーリエ係数について成り立つ,よく知られたペイリーの不等式をハンケル変換に対して考察し,類似の型の不等式を得た。洞は次の(イ),(ロ)につてい成果を得た:(イ)量子確率論の方法による群の表現とグラフのスペクトルの漸近解析,(ロ)無限対称群および無限環積群の指標の確率論的導出。立澤は重み付きHerz空間のウェーブレットによる特徴付けを与え,重み付きHerz空間においてウェーブレット関数系が無条件基底になっていることを示した。立澤はまたBesselポテンシャルに関するLiebの不等式を,重みの付いた形で拡張した。
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