ブラックホールなどの高密度天体連星系からの放射は激しい時間変動を示す。しかし、その起源は今もって不明である。本研究課題は、連星系からの非熱的電子起源の可視光を0.1秒以下の時間分解能で分光観測することにより、急激なスペクトル硬化、すなわち粒子加速の証拠を見出し、その時間変動の起源を明らかにしようとするものである。2年度である今年度は以下の成果を得た。 (1)高速分光器はH20年6月に完成、7月に広島大学1.5mかなた望遠鏡の第2ナスミス焦点に設置された。その後の試験観測により、波長分解能、検出効率、限界等級等について、所期の仕様が達成されている事が確認されている。導入当初は、天体導入の操作が極めて複雑で、観測開始までに20分程度を要していたが、H21年2月に開発が完了した専用の制御ソフトウェアを用いることで、1-2分で観測が開始できるようになり、本格的な観測を開始するための準備がいよいよ整った。 (2)テスト観測として、H20年10月にX線域で活動的になったブラックホールX線連星V4641 Sgrの測光観測を行ったが、可視域では大きくは増光しておらず、有意な短時間変動は検出できなかった。 (3)理論面では、放射流体力学に磁場を加えた大局的放射磁気流体シミュレーションを実行し、同じコードで、密度パラメータを代えるだけで、スリム円盤状態の幾何学的に厚く光学的にも厚い円盤、標準円盤状態の幾何学的に薄く光学的に厚い円盤、放射非効率降着流の幾何学的に厚く光学的に薄い円盤の、三種類のスペクトル状態を再現することに成功した。またすべてのケースで、磁場がぎりぎり巻きになって磁気タワーを形成し、ガスをジェットの形で噴出することを示した。
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