一連のニュートリノ振動実験によりニュートリノは質量を有することが判明した。ただし、これらの実験においては質量の二乗差が測定され、その絶対値を決定することはできない。ニュートリノの絶対質量や型式(ディラック型vsマヨナラ型)を確定することは標準模型を超える素粒子物理学において本質的重要性を持つ。本研究は、原子過程を用いたニュートリノ質量の測定法を開発することにある。本研究では、全く新しい原理「マクロコヒーラント増幅機構」を用いた原子からのニュートリノ対放射を考案し、これによる質量分光を提案した。この方法は、原子準位のエネルギースケールが対象とする質量スケールと同程度あり、原理的に小質量に感度が良いこと、同種粒子効果を使いマヨナラ型かディラック型かを決定することが可能な事、宇宙背景ニュートリノ観測に道を拓く可能性がある事などの特徴を持つ。更に提案した方法にとり原理検証実験を明確し、その基礎を構築した。即ち、Rb原子の超放射を観測すること、及び、二光子超放射実験に不可欠なBa原子の準安定状態を生成することに成功した。前者において超放射であることの確認は、(i)遅延時間が自然寿命(51.3nsec)とは異なること、(ii)逆にパルスの大きさと遅延時間の相関が超放射の理論通りであること、(iii)放射角分布(超前方及び超後方に集中)等による。後者においては、基底状態にある原子を554nmレーザーを用い6s6plP1に励起し、そこから自然放射または誘導放射を使って、準安定状態である6s5d1D2を生成した。更にニュートリノ対生成実験に適したXe原子をマトリックス中に埋め込むことを可能とした。以上により「ニュートリノ質量分光学」の基礎を構築した。
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