B中間子崩壊の理論計算の、最も首尾一貫したQCD因子化の枠組みを構築する研究を進めた。まず、前年度に得られた、B中間子光円錐波動関数の演算子積展開の新しい結果を、詳しく数値計算した。次元5までの局所演算子の全てと、対応する係数関数の1ループ補正を取り入れた、この演算子積展開に基づき、B中間子光円錐波動関数における非摂動効果は、ユニバーサルな長距離効果に対応する3個のパラメータで決定される。これらのパラメータの現存する非摂動的評価を代入し、また、赤外リノーマロンの影響を除くことにより、B中間子光円錐波動関数の世界最高精度の定量的評価を得た。クォーク・反クォーク間の距離についての“短距離展開"に対応する演算子積展開の結果を、距離が大きな領域の振舞いのモデルに“連続につなぐ"ことにより全距離領域に拡張し、B中間子崩壊率の計算への適用の予備的考察も行った。上記3個のパラメータのうちの2個は、次元5のクォーク・反クォーク・グルーオンの3体演算子の効果を表し従来は無視されてきたが、崩壊率の計算値を大きく左右する効果をもたらすことがわかった。以上の結果は、国内・国際研究集会、およびPhysics Letters B誌上に発表された。重要性が示された2個のパラメータについて、QCD和則による従来の非摂動的評価の改良を、研究支援者として雇用した西川哲夫と協力して進め、特に、和則への主要なQCD補正を新しく導出した。これとともに、B→γeν崩壊の新しい因子化公式を求める計算も、1ループ・マッチングで進め、これらについては今後まとめて発表していく。グルーオン放出の摂動再足し上げや非摂動的なグルーオンの効果を考察するモデル・ケースとして、Drell-Yan過程での偏極現象についてQCDに基づく理論的予言を行い、国内・国際研究集会、およびPhysics Letters B誌上等の論文として発表した。
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