パルス中性子源であるJ-PARCや北海道大学工学部の施設を利用して、開発したGEMを用いた中性子画像検出器は、中性子の入射位置と入射時間を正確に測定できることを示した。特に、2つの実験を通して、波長別中性子ラジオグラフィーへの新しい道を切り開ける可能性があることがわかった。1つ目の実験は、比較的中性子エネルギーの高い部分(共鳴吸収領域)を利用するものである。この領域では中性子速度は比較的速いので、開発した検出器の時間測定分解能が良い特徴が発揮できて、各元素特有の共鳴吸収断面積の大きな狭い波長領域だけを抜き出すことによって、それぞれの物質を独立に画像化できることを示した。2つ目の実験は、熱(冷)中性子領域の吸収断面積が大きく変化する部分を利用するものである。ここでは、その吸収断面積の波長に対する変化の仕方から曲げなどによって起こる金属材料内の変化を細かく画像化できることを示した。 これらの応用的実験と並行して、検出器のデータの詳細な解析を進めることによって今後にさらに性能の良い中性子検出ができる可能性を2つ見つけた。1つ目は、信号が複数のストリップから発生した場合に、同時に記録している信号の発生時間と継続時間を利用して、より正しい中性子の入射位置を導き出す方法を開発した。これにより、画像のきれの部分を改善することができた。2つ目は、バックグランドとなるガンマ線を分離する方法を確立したことである。通常は、信号の大きさを利用して行うのであるが、電子回路を簡便にするために、開発した検出器システムでは、信号の大きさを測定していない。しかし、継続時間を利用すれば、信号の大きさを利用する場合と同様な性能が得られることを示した。
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