平成21年度にはJ-PARC線型加速器の大強度負イオンビームにおける中性粒子測定を行った。またビームモニター系を用いた軌道調整と位相調整の結果、ビーム損失の低減を実現した。 今後は真空中の残留ガスとの衝突による負水素ビームの中性化とそれによるビームロスが支配的になると考えられている。シンクロトロン加速器への入射においても中性粒子成分は重要な役割を果たす可能性が高く、今回の測定結果は重要な示唆に富んでいる。偏向磁石の直線下流域に設置したビームスクレイパーモニターを掃引し、高感度アンプで信号を増幅・検出することで電磁石に曲げられずに直進する中性粒子ビームの空間分布測定に成功した。 中性化された負イオンビームは四重極電磁石による収束力も受けない為ビーム進行方向のビームプロファイルの積分値がスクレイパーでは検出される。この分布はコリメーターやビーム入射点におけるビームロスの発生状況を再現したものと考えられ、局所的なビーム計測で得られる分布よりも広がった形状になると予測される。 今回得られた計測結果とレーザープロファイルモニターで観測される時間的、空間的に局在した中性粒子ビームの分布を比較することで将来的にビームロス上流域での局所測定からシンクロトロン入射ポイントにおける積分されたビームロスの推定と抑制が可能になると考える。 大強度化を目標とするJ-PARCにおいてリングへの入射ロスは加速器全体のビーム増強を抑制するボトルネックになると考えられており、直線加速器下流域の中性化によるビーム損失の抑制は加速器の性能向上と安全性の確保という観点で最も重要な寄与を果たすと考える。本研究課題はこれらの最重要課題の解決に資する可能性が高く、今後も計測・解析研究を継続する予定である。
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