平成19年4月に京都大学化学研究所において行なっていた、SCRIT-R&D実験で、SCRITに蓄積したCsイオンからの電子弾性散乱を観測する事に成功した。同年8月にイオン入射ライン装置、イオン検出器および制御回路等に改良を加えて、最終的なR&D機を完成させた。これを用いて同年12月に行なった実験において、約1000万個のCsイオンをSCRIT中に0.1秒の寿命で蓄積し、そのトラップしたCsからの電子弾性散乱の角度分布を25度〜60度に渡って測定する事に成功した。1000万個のうち約10%を電子ビームと衝突する軌道上に局在させることができた。散乱角度分布測定の結果は理論的に計算された散乱断面積と完全に一致し、SCRIT法による希少元素(不安定核)の電子散乱実験が可能である事を証明した。この実験で得られたSCRITの性能は、約100万個のイオンを電子ビーム電流75mAのビーム軸上にトラップする事によって10^<26>/(cm^2s)のルミノシティーが得られるというものであり、我々が不安定核電子散乱を行なうために目指したルミノシティーが完全に達成された。 平成20年度は、化研の都合により6月に一度だけしか実験を行うことができなかったが、この実験で、イオン蓄積中のルミノシティーの時間変動や、電子ビーム電流および電子ビーム状態に対する依存性などの基礎的データの収集ができた。こうした実験結果は、SCRIT性能評価としてのデータは十分であり、SCRIT法によって希少元素(同位体)の電子散乱実験が十分可能であることが立証された。
|