本研究では、電子移動を伴う電気化学反応を第一原理計算を用いてシミュレーションを行うことを目的としている。本年度では、昨年行った水の電気分解の負極反応における反応自由エネルギーの計算を行い、さらに正極の反応に関する解析も行った。 電気化学反応はマクロなスケールで見ると稀にしか起こらないイベントである。従って、分子動力学シミュレーションを用いた数十ピコ秒の計算で、実験に近い環境で反応を起こすのはほぼ不可能である。このような稀な現象をシミュレートするための方法がブルームーン・アンサンブル法であり、反応の自由エネルギーや活性化障壁などを計算する事が可能である。 本研究ではヒドロニウムイオン中の水素原子と表面に吸着した水素原子が会合し水素分子になる反応である、ヘイロフスキー反応のシミュレーションをブルームーン・アンサンブル法で計算した。反応の活性化エネルギーは約0.1eVと見積もられた、実験値は0.2eV程度でありかなり良い一致をみる事が出来た。固液界面における反応の自由エネルギー計算は今までに例のない計算であり、今後も様々な系への適用が期待される。 今年度は水の電気分解の負極反応である水素発生反応に加えて、正極反応である酸素発生反応のシミュレーションを開始した。シミュレーションではプラチナ電極上にあらかじめ陰イオンとして水酸化物イオンを配置した表面を用意して、正電圧を印加しながらシミュレーションを行った。水酸化物イオンは界面上をグロッタス機構で拡散する事が明らかになった。また、水酸化物イオンがトリガーとなり界面付近の水が分解して、新しい水酸化物イオンとヒドロニウムイオンが生成する事が明らかになった。
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