研究概要 |
代表的な半導体であるSi,Ge,グラファイトや,有機半導体などでは,伝導電子の持つスピン軌道相互作用が弱く,スピン偏極の情報が格子に伝わらないために,レーザー光磁気Kerr効果(MOKE)などの光学的方法を用いることができない.これらの半導体中での伝導電子スピン偏極(CEP)を測定する実験技術を確立し,新しいスピンエレクトロニクス材料の機能を開発することを目的として,本研究グループが高エネルギー加速器研究機構において創始開発したミュオニウムスピン交換反応測定法を,世界最高尖頭強度を持つ英国理研RAL研究所のパルス状ミュオン発生施設のポート2で実現するために,ミュオンパルスと同期したパルスレーザースピン偏極系を構築した.理化学研究所およびラザフォードアップルトン研究所の協力で,購入したレーザー装置を設置するためのレーザーキャビンを整備し,ミュオン実験ポートまで安全機構つきの光輸送路を構築し,専用のクライオスタットの準備をおこなった.高エネルギー加速器研究機構の協力で本レーザーにOPOレーザーを組み込み,レーザー納入業者の協力により光学機器の貸与を受け,この実験装置を用いたテスト実験として,長寿命の光励起スピン偏極がMOKEであらかじめ確認されているGaAs標的を用いてCEP測定を行い,原理の検証に成功した.ミュオニウムスピン交換反応測定法では,スピン編極したミュオニウムを対象とする半導体に導入し,スピン偏極した電子との間の交換反応によって,高感度に,かつ実験条件に大きな自由度を持たせて,半導体中のCEPを精度良く測定することができる.CEPによりミュオニウムのスピン偏極が変化しその変化をミュエスアール法で検知できるからである.この方法はほぼ如何なる半導体に適用できて,温度等の外的条件によらないため,広い応用実用分野の展開が期待される.
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